詩人の紹介「郷土望景詩の後に」

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前橋公園

前橋公園は、早く室生犀星の詩によりて世に知らる。利根川の河原に望みて、堤防に桜を多く植ゑたり、常には散策する人もなく、さびしき芝生の日だまりに、紙屑など散らばり居るのみ。所所に悲しげなるベンチを据ゑたり。我れ故郷にある時、ふところ手して此所に来り、いつも人気なき椅子にもたれて、鴉の如く坐り居るを常とせり。

大渡橋

大渡橋(おほわたりばし)は前橋の北部、利根川の上流に架したり。鉄橋にして長さ半哩にもわたるべし。前橋より橋を渡りて、群馬郡のさびしき村落に出づ。目をやればその尽くる果を知らず。冬の日空に輝やきて、無限にかなしき橋なり。

新前橋駅

朝、東京を出でて渋川に行く人は、昼の十二時頃、新前橋の駅を過ぐべし。畠の中に建ちて、そのシグナルも風に吹かれ、荒寥たる田舎の小駅なり。

小出松林

小出の林は前橋の北部、赤城山の遠き麓にあり。我れ少年の時より、学校を厭ひて林を好み、常に一人行きて瞑想に耽りたる所なりしが、今その林皆伐られ、楢、樫、ぶなの類、むざんに白日の下に倒されたり。新しき道路ここに敷かれ、直として利根川の岸に通ずる如きも、我れその遠き行方を知らず。

波宜亭

波宜亭、萩亭ともいふ。先年まで前橋公園前にありき。庭に秋草茂り、軒傾きて古雅に床しき旗亭なりしが、今はいづこへ行きしか、跡方さへもなし。

前橋中学

利根川の岸辺に建ちて、その教室の窓窓より、浅間の遠き噴煙を望むべし。昔は校庭に夏草茂り、四つ葉(くろばあ)のいちめんに生えたれども、今は野球の練習はげしく、庭みな白く固みて炎天に輝やけり。われの如き怠惰の生徒ら、今も猶そこにありやなしや。

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更新日:2019年02月01日